金沢文化スポーツコミッション

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STORY

食事と身体づくり【コラム】

スポーツを「する人、観る人、支える人」に役立つ、専門家によるオリジナルコラム第2弾!
スポーツにおける食事の大切さについて、管理栄養士・公認スポーツ栄養士の中﨑衣美先生にお聞きしました。

公益財団法人 北陸体力化学研究所 中﨑衣美先生

略歴:平成18年4月~公益財団法人北陸体力化学研究所
資格:管理栄養士、公認スポーツ栄養士
専門分野:栄養・食生活支援
主な業務:特定保健指導、生活習慣病予防セミナー講演、アスリートの食事調査・栄養指導等栄養サポート、学徒・学生向けの食育講演
活動実績:石川県科学的トレーニング特別強化事業、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業等での食事・栄養サポート

 


公認スポーツ栄養士の中﨑衣美です。生まれも育ちも金沢で、石川県内で活動しています。
スポーツをする上で役立つコラムということですが、正直な気持ちを申し上げれば、競技の発展にご尽力されてこられた先生方のお話をお聞きしたいところで、誠に僭越ながら、ここではこれまで見てきたことや感じていることなどを思ったまま綴ってみたいと思います。それが何かのきっかけになっていただけるならば嬉しいです。


様々なところへセミナー等で伺います。まだ小学生でありながら疲労骨折をした、身長が1年で1㎝しか伸びなかったなど、ケガや成長に関するご相談もよく受けます。選手の未来を守ることは、スポーツに関わる者として大切な役割だと思っています。食事はケガ予防や成長を支えることにも関わっています(図)。ある事例とともに身体づくりについて考えてみたいと思います。

ある学校での事例

ある学校で骨強度を測定することになり、さまざまな運動部で測定しましたが、A部は年齢平均より骨強度が低い選手が多い状況でした。幸いこの選手たちは疲労骨折等のケガにはつながっていませんでしたが、ケガにつながるかもしれないリスクは下げておきたいところです。部員の多くの骨強度が低いということならば、競技特性である可能性もありますが、走ったり跳んだりする競技で骨への刺激は十分にあり、過度に一部分に力が加わる競技でもないことから、なぜだろうと考える必要がありました。A部はほとんどの部員が下宿生で、下宿先では育ち盛りの子も満足いくような量の夕食や、昼の弁当も用意してくださっていました。ただ、朝は早いので選手たちは移動しながら食べられるパンを選択していました。2袋買うと100円になるお得な菓子パンで、それを2セット(揚げパンを4つ)食べていました。この朝食が原因だと言うことはできませんが、朝食を改善する余地はあります。早朝に自転車をこぎながらでも食べてくれていたことはまだよかったにしても、がんばっている選手ほど必要量は多く、食事の質に関してもより意識していかなければ、身体の不具合につながる可能性は高くなります。

選手たちの生活

改善する方法を考えたとき、まずは時間が確保できないか、選手たちの生活を確認したところ、勉強以外に洗濯などもこなす必要がある中で、できる限りの早寝早起きをしているとのことでした。そこで、食事時間がないなかでもパンはおかずが挟んであるものにしたり、牛乳もプラスすること、朝練後に食べるもの(おにぎり、オレンジジュース、ゆで卵など)も買って行くことなどを提案しました。これを実践しようとすると出費が増えるため、保護者にその旨をさっと連絡できたりする選手と、さまざまな理由で現状のままの選手がいました。こうなってくると、部として食事環境の整備や時間管理も必要になってくるかもしれません。保護者へ現状の報告と協力の連絡を入れることも有効かもしれませんし、朝練開始時間を少し遅らせることで、下宿先に朝食提供もお願いしやすくなる、またはおにぎりなど主食の提供だけでもお願いし、選手はコンビニでたんぱく質やビタミン、ミネラルが確保できるようなものを購入することができるかもしれません。費用の確保だけでなく時間に少し余裕があることで食べる物や量の選択肢も広がると考えられます。

身体づくりがうまくいかないのは?傾向と工夫

朝練は時間が限られた中での大事な練習なのですが、もし疲労骨折が多いとか身体づくりがうまくいかないという場合は、今一度次にあげる点にあてはまることはないか確認していただきたいと思います。いくつか傾向があると感じています。

【1】食べる時間がないので、食べる量が少なく、その結果エネルギーが足りない
【2】エネルギー不足にならないよう補食も活用しているが、時間がない朝食や補食はおにぎりなど糖質に偏りがちで、たんぱく質やカルシウムなど骨をはじめとする身体の材料が不足しがち
【3】先のふたつのパターンを理解し、食事量も栄養素も確保に努めているが、それを活動量がさらに上回ってしまう

【1】や【2】は、補食の活用といった選手の工夫も必要です。【3】や、毎年ケガ人が複数名いる、体格が大きくならない選手が多いという場合には、部(チーム、クラブ)として、食べるものを用意する時間、食べる時間がとれるようスケジュール面での手助けも必要なのではないかと感じています。しかし、食事のために時間を作ったのに、寝坊のためにその時間を使われては練習量がただ減るだけ。なぜ時間を作ってまで食べてほしいかという栄養教育や目的の共有は欠かせません。

選手をとりまく環境づくり

今回この事例を取り上げたのは、選手の状況と選手を取り巻く環境の再確認をしていただけたらという思いからです。今回は骨強度測定でしたが、選手の状態を血液検査、体組成測定などの結果で客観的に評価してみることで、課題を洗い出すきっかけになります。そして、食事は選手個人や家庭での取り組みが大切ではあるものの、練習環境によってその取り組みに支障が出てきてしまっていないかの確認も必要です。例えば、試合数が多くて食事時間がないような練習試合スケジュールを”毎週”のように組んでいないか、遠征など選手が自由に動けない際の外食では必要なものが食べられる店を選んでいるか(または足りないものを購入できる店に連れて行くことなどをしているか)、家の遠い選手が食事時間を確保できるような練習スケジュールか、などです。これらの環境に対応しようとするのがスポーツ栄養ではないのか、というお声が聞こえてきそうですが、もちろん状況に応じた工夫をしていきます。しかし工夫しても難しいもの(身体に影響が出てきてしまっているなど)に関しては環境面での工夫も検討していただけたらと思います。


ちなみに、冒頭で触れた疲労骨折の小学生は、朝食は食べず、休日の昼食は(練習があるときでも)パン2個だけとのことでした。やはり食事量や内容の確認は必要で、練習に必要なエネルギーが確保できていない人は、その日の練習には参加できないくらいの意識の徹底(そういうチームの雰囲気)が必要かもしれません。逆に、選手全員に1食ご飯〇合と一律の量が課されており、体重管理に苦労している選手もいます。これらの事例は、ジュニア選手においても、目標体重、筋肉量、練習以外の活動量や生活リズム、これまでの食生活などを考慮し、かつモニタリングしながら、選手にあった量を提案していく必要があることを表していると思います。

選手本人たちの知識や意識の向上に加え、食の大切さが自然に意識できるような、選手を取り巻く環境づくりが、若い選手が長く活躍できる秘訣ではないでしょうか。

※プライバシー保護の観点から、詳細に関して伏せており具体的でない表現も多いことをお詫びいたします。食事指導内容も、状況が異なれば紹介したものはベターでないことがあります。あくまで一例のご紹介です。