金沢文化スポーツコミッション

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STORY

ウエイトリフティングの聖地・石川

毎年3月「全国高等学校ウエイトリフティング競技選抜大会」の開催が定着している石川。数々の全国大会や国際大会が行われ、「ウエイトリフティングの聖地」と呼ばれています。東京五輪ではフランス代表チームの事前合宿が行われたほか、2022年夏には新たな大会「全国高校女子金沢大会」が生まれました。
そこで今回は、さまざまな大会開催の立役者としてウエイトリフティング界を牽引する、石川県ウエイトリフティング協会理事長 菊田三代治さんに、石川とウエイトリフティング、大会誘致について、今後のウエイトリフティングへの想いなどを伺いました。

■お答えいただいた方
菊田 三代治(きくた みよじ)さん 
石川県ウエイトリフティング協会 理事長
金沢学院大学ウエイトリフティング部監督
主な経歴
・珠洲実業高校ウエイトリフティング部初代監督(昭和60年(1985年) 第32回全国高等学校総合体育大会 学校対抗優勝)
・2004年アテネオリンピックウエイトリフティング競技日本代表男子監督
・2012年ロンドンオリンピックウエイトリフティング競技日本代表女子コーチ
・元日本ウエイトリフティング協会常務理事 など


石川が「ウエイトリフティングの聖地」と呼ばれるのはなぜですか

昭和60年(1985年)高校総体の学校対抗で優勝した珠洲実業高校。創部わずか3年目での金メダルは初の快挙。(写真:石川県高等学校体育連盟「高体連年鑑 第11号」より)

昭和39年(1964年)東京オリンピックの後、有志たちの呼びかけから、金沢高校に県内高校初の正式なウエイトリフティングのクラブが設立され、その顧問の西野正次氏(現:石川県ウエイトリフティング協会顧問)が、さらに県内ウエイトリフティングの礎を築いていきました。
昭和58年(1983年)、昭和60年(1985年)石川県での全国高校総合体育大会(高校総体)開催に先駆けて、ウエイトリフティング会場となる珠洲市に、飯田高校・珠洲実業高校、2つのウエイトリフティング部が設立されました。教員の私は、部創設のため昭和57年(1982年)に珠洲市教育委員会に、その後昭和60年に珠洲実業高校に異動となり、地元開催の高校総体で優勝を果たしました。創部わずか3年目の優勝は、後にも先にもこれが初めての快挙です。
その後、私はコーチとして参加した日本と韓国の交流大会である「日韓ユース大会」で、1986年のソウルアジア大会、1988年のソウルオリンピックを目前に強化が進んでいた韓国のウエイトリフティングに衝撃を受け、強化と普及には海外との交流だと気づき、韓国や中国との交流合宿などに積極的に取り組みました。その結果、高校生の部員が増え、強化も進んでいきましたし、2005年、金沢学院大学でウエイトリフティング部が創設されたこと、さらに日本ウエイトリフティング協会会長に学校法人金沢学院大学理事長の飛田秀一氏に就任いただいたことに大きな力をいただきました。そして2008年には、北京オリンピック選手選考に関わる各国の最後の選考大会として、アジアウエイトリフティング選手権大会の金沢開催が実現しました。
もうひとつ大きなものが、全国高等学校ウエイトリフティング競技選抜大会(全国高校選抜大会)の開催です。一般財団法人地域活性化センターに”スポーツによる地域振興に対する助成事業”ができたときに、ウエイトリフティングの普及と強化に励もうと金沢市とともに働きかけ、全国高校選抜大会が10年間金沢で開催されることになりました。10年開催されることになると、各県の方々が「めざせ金沢」と異口同音に言われるようになって、さらに5年、またさらに5年と開催が定着してきたわけです。
昭和60年から今までの間に、国際大会を含む全国大会が35回開催されている地域は石川の他にありません。これが「ウエイトリフティングの聖地」と呼ばれる所以かなと思います。

菊田さんの選手時代、そして監督としてのエピソードを聞かせてください。

ウエイトリフティングは大学から始めました。勧誘を断りきれなかったのが入部のきっかけでしたが、だんだんこの競技が好きになってきました。「続けること」「諦めないこと」「工夫し考えること」から得られる「達成感」に魅力を感じるのと、ウエイトリフティングは個人競技だけどひとりでできる競技ではなくて、苦しくてくじけそうになっても、みんなで「一緒」懸命に取り組めば成果が出る。そういうところが自分に合っている気がしました。
すでに指導者になっていた時期に、選手として全日本社会人選手権大会で優勝しました。人から見れば指導者と選手の両立は大変と思うかもしれませんが、「高校生がこれだけ挙げたら自分も挙げないと」とか「下手なことはできないぞ」と取り組むと、生徒も挑戦するような気持ちになって、お互いがわくわくした気持ちを持つようになります。わくわくする気持ち、緊張感と期待と不安が入り混じった心的状況、これが競技の楽しさで、こうしたわくわくする体験を作っていくことが指導者の仕事なのかなと思います。

  • 昭和58年(1983年)全日本社会人選手権で優勝した菊田さん。当時は創部間もない珠洲実業高校・飯田高校のウエイトリフティング部で指導にもあたっていた。

  • 監督として珠洲実業高校が高校総体優勝を果たした昭和60年(1985年)には、選手として鳥取国体に出場。成年男子90㎏級で見事2位に輝いた。

監督として海外に行く機会が多くありました。海外の大会はスケジュールがタイトですが、できるだけその土地のものに触れるよう、時間があればそれらを求めていくようにしています。特に韓国の熱心さ、遠大な計画の実行性というのは、いつの年代でも参考にできるものだなと思います。
もうひとつ、海外の国々では、国民性として、スポーツを見ることの楽しさをどの競技に対しても知っていますね。クラブという組織ではなく、遊びに来ている友達が自然にトレーニングを覚え、競技を覚えていくというのはすごいなと思います。
2001年にドイツに行き、ある高校の体育館で、全ドイツ東西チャンピオンの東西チームが7人対7人で戦う大会を見ましたが、屋台が並んでいて、そこでみんなビールを買って、体育館でウエイトリフティングの大会を見るわけです。間に10分間の休憩があると、その時みんなが会場のテーブルでビールを飲んだり食事をしたりしている。しかも、日本のコーチが学びに来たと言って、私はスポットライトを浴び紹介され、次の日には新聞にも出ていました。フレンドリーというか親近感というか、スポーツにはこういう楽しさを作らなきゃいけないなと見せつけられましたね。そういうところからしかジュニアは育たないのだろうと思いました。

全国高校選抜大会をはじめ、数々の大会の金沢開催に関わってこられましたが、大会誘致はどのような意義があるのでしょうか。
また、大会では
文化体験やおもてなしの企画などを積極的に取り入れています。「文化×スポーツ」の取組に対する思いを聞かせてください。

普及されていないことに甘んじている未普及種目はいろいろあるけれども、それが石川で育ち、中心となってやってきた。その礎は全国高校選抜大会の開催で、この実績がやはり全国に安心感を与えるんですね。例えば、強い県というのはいろいろありますが、個人の活躍や頑張りによって評価される時代があったとしても、組織としての視点というのは石川が一番あるわけです。地域からの期待感も生まれます。全国高校選抜大会を開いてきた安定感と、弱小県であったにもかかわらず、小異を捨てて大同に立つという地域性が認められつつある。いろんな大会をしてきたからこそ、そういうものが育ってきたのだと思います。
大会には、以前から、例えば開会式の後に太鼓を演奏したり、はしごのぼりを披露したり、地域の伝統芸能や文化といったもの取り入れ、地域との触れ合いを増やしてきました。意外なものだから、そういうものはやっぱり喜ばれるんです。
毎年3月の全国高校選抜大会は、高校2年生の最後に開催されます。だから自分の力試しの最初の全国大会ということで、緊張感を持って臨んでくるんだけども、そこに地域芸能みたいなものを入れると、みんながリラックスして大会に臨むことができるんです。金沢文化スポーツコミッションと一緒に”加賀八幡起上り”の絵付体験などを行いましたが、これも緊張感とリラックスとの融合。競技そのものがオンとオフが求められるからこそ、試合で疲れたけれども、競技から日常に戻ったときにリラックスしてもらえるような体験ができることは、とても好かれているように感じます。

  • 「第67回全日本学生ウエイトリフティング個人選手権大会」では、会場内に”加賀八幡起上り”絵付け体験コーナーを設置

  • 選手たちは思い思いの起上りとともにリラックスした表情

  • 「第67回全日本ウエイトリフティング選手権(女子)」開会式ではチアリーディングが大会を盛り上げ

  • 競技の合間、はがきの「金箔貼り体験」に挑戦!離れて暮らす家族や応援してくれる友だちに、メッセージを添えて大会の思い出を届けました。

これからのウエイトリフティングを通しての夢を聞かせてください。

ひとつは女子ウエイトリフティングの普及です。
2022年7月、新たな大会「全国高等学校女子ウエイトリフティング競技会金沢大会」を開催しました。2021年から女子がインターハイに組み込まれたのですが、全国高等学校体育連盟(全国高体連)は今さら拡大路線は取らないので、男子の枠を削って女子となるわけです。そうすると男子の参加枠が少なくなって、充足率も下がってきてしまう。それを憂いで、私たちが全国高校女子金沢大会を開きませんかと言ったんです。すると、インターハイ2週間前にもかかわらず、北海道や沖縄から2日間の大会のために4日間を費やしてきてくれた。これは皆さんに迷惑かけられないなと思い、普通は会場にひとつのプラットフォームだけのところを、日本で初めて同じ時間帯にひとつの会場でふたつの競技会を行いました。それが選手、指導者、観客から好評で、一足飛びに二歩も三歩も先んじてこの大会の評価が高まりました。次はこの大会を確立しなければいけない。今200名足らずだけど、目前にインターハイがあるとはいえ、今度は250名を目指す。そうすると女子の普及度が高まるのではないかと思うんです。すると今度は、女子に負けずと男子もどこかで始まるかもしれないですよね。全国高校選抜大会も、新たな大会へと変わっていかなきゃいけないと思っています。ただその結果として、2026年アジア大会、2028年ロサンゼルスに向けて、強化と普及に取り組んでいくことが必要だなと思います。

  • 2022年7月に初開催した「全国高等学校女子ウエイトリフティング競技会 金沢大会」 インターハイ直前にもかかわらず、北海道から沖縄まで194人の選手が集結。

  • 会場には2つのプラットフォームを設置。1会場で2つの競技会を同時進行する日本初の試みは、選手、指導者、観客から好評。

  • 競技会の様子は、実況・解説入りでYouTube配信。大会のライブ感とともに、競技の魅力を発信。

また、スポーツの魅力の情報発信にも取り組みたいと思っています。
2019年の全国高校選抜大会にYouTube配信を初めて取り入れました。最初の1年は流すだけだったけれど、全国高校女子競技会では解説者を入れた。そうしたらみんな喜んで聞いてくれました。だから、新しいもの、情報をいかに与えるかっていうこと、同じようにやっているんじゃなくて変えていくこと、これが大事なのではないかなと思います。
日本ウエイトリフティング協会は会員1万人を目指しているけれど、今はまだ5,000人いない。これはやっぱり、競技の魅力発信から遅れていると思うし、指導者はもっと工夫しないといけないんじゃないかな。今後も競技の魅力発信に取り組んで、さらにそれを次の指導者へと繋いでいきたいですね。競技の魅力発信のためには大会を誘致しなければならない。私たちが大会を開いてることによって、スポーツの魅力の発信、そして人材発掘、育成強化に繋がるということを皆さんに理解され、認知され、強化に繋がっていって、そのことが安定した活動ということで認められつつある。だから、皆さんが「俺がやるよ」と言うまで、繋いでいかなきゃいけないと思います。